ファイナンス本と言ったほうが良いかもしれない?なかなか面白い会計本を読んだ件
東洋経済の「会社四季報から始める企業分析 最強の会計力」という本を読みました(本というより雑誌かも)。内容は企業経営者などへのインタビューや実際に企業が導入している実例などの紹介です。100ページ程度ですが中身も濃かったのでオススメかなと思います。東芝の失態についてもわかりやすく書かれていてなかなか面白いです。会計のみならず、ファイナンスについても結構書かれています。
- 作者: 東洋経済新報社,東経=
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2017/11/10
- メディア: 単行本
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いくつか気になった箇所をピックアップしてみたいと思います。
経営共創基盤(IGPI)冨山和彦氏のインタビュー
冨山和彦氏はこの本の中で中々辛辣な発言を何度も述べていました(笑)その中で気になった所をピックアップしてみます。
一般的に日本の経営者の会計リテラシーは異常に低い。特に大企業はひどい
大企業の経営者は会計リテラシーが低いみたいです。創業者なら数字に敏感だと思いますが「サラリーマン経営者だと資金繰りで苦しむ」といった経験をすることもなく学ぶ機会がなかったのかもしれません。自ら学べば良いと思いますが、今の大企業の経営者の世代は、学ぶということが 少ないように見えてしまいます。
大企業は、いくつかの、世界で戦える企業に集約される。その先、経済成長を支えるのは、今は存在しない企業だ。
近年は大型買収がさかんに行われています。大企業が大企業を買うという流れは今後も続くと予想されるのでしょう。しかしそれだけでは経済全体としては成長しないので、成長の起爆剤になるのはベンチャーということでしょう。今ならブロックチェーンやバイオを扱っている企業がいずれ大企業になるのではと個人的には思っています。
まだ元気で利益を上げているうちにノンコアになったら、その事業を本気でやるところに譲渡すべきだ
欧米的な発想かなと思います。非常に合理的です。GE等の欧米の会社はとにかく事業ポートフォリオの管理を常に意識しています。経営者はポートフォリオマネージャーとしての能力を求められています。日本でその能力を持っている経営者はどれくらいいるのでしょうか?また、このような発言をする富山氏としては、様々な事業を抱えている日本の総合商社をどのように見ているのか聞いてみたい所でもありますね。
EBITDA、WACC(資本コスト)、ROIC(投下資本利益率)について
と書いてありましたが、本当にこれで良いのでしょうか?これらの要因が企業価値に影響をもたらすわけで、これらを除去したら意味がないと思います。企業価値はDCF法のようにキャッシュフローをベースに算出するべきですが、税率や会計基準はキャッシュフローに影響しますし、市場金利は割引率に影響します。逆に考えるとEBITDAは企業価値算出には全く意味をなさないのではと思います。また個人的には、設備投資を度外視している点でもEBITDAは使えないものであるという認識です。
IR活動で”不確実性”を下げ、WACC全体の水準を下げる
IRの目的は、 株価を上げることではなく資本コストを引き下げることです。IRで誠実に企業情報を開示することにより信用を得るべきではないでしょうか?ちなみ0<β<1という企業は、株価の値動きが小さいということで、投資家から信用を得ているのではないかと思います。
・米国ウォルマートなど、海外ではROICを重視する企業は一般に三色を外部に開示する。
・ピジョンの例は読者にとう映るだろうか。「ROICは複雑だし企業秘密だから開示しない」のではなく、「重要で社員に理解してほしいから外部にも開示する」という考え方はないだろうか。
ROICについても客員教授の方は触れています。ROICは分母と分子に何を持ってくるかで大分変わってしまうのでわかりにくい面もありますが、だからこそ社外・社内全員に経営陣がどのような意図を持っているのか知ってもらうためにも全社に開示してもらい所でもあります。日本企業だとピジョンが開示しており、2015年には東証に表彰されています。
(ピジョンのIR資料から)
ちなみに、ピジョンは長期で見ると株価は右肩上がりです。(今後もそうなるかはわかりません)
先進企業の会計指標の利用事例
本では、いくつかの会社での会計指標の使い方が紹介されていました。
「花王」
資本コストは事業部で切るのではなく、全社で一本化して見ることにした
たまに、各事業部ごとに資本コストを設定しているという企業を見かけますが、本来資本コストは”会社として達成すべきハードルレート”であるはずなので、事業部ごとに設定する意味がないと思います。そもそも、株主資本コストを事業部ごとに求めるというような事ができるのでしょうか?よって、花王は真っ当な手法にしていると言えます。
・CAJJの最大の特徴は、ランク分けの指標を営業利益一本に絞っている点だ。
・ルールが複雑になればなるほど、制度自体が社内ではやらなくなってしまう
CAJJとは、サイバーエージェント(CyberAgent)事業(Jigyo)人材育成(Jinzai)プログラムの略らしいです。簡単に言うと新規事業の創出と撤退を管理する仕組みらしいです。ネット企業の場合は、ユーザー数・DAU・MAUなど色々なKPIで評価しそうな所、サイバーエージェントの場合はシンプルに営業利益だけで評価しているみたいです。結局”商売としてどれだけ儲かったか”、シンプルで良いですね。
HOYAのIFRS導入について
IFRSを導入したHOYA財務部のマネージャーの方と会計士の方の対談インタビューが載っていました。読んだ限りIFRSへの移行は相当苦労したようです(笑)(実際にIFRSへの移行は地獄と聞いたことがあります)
IFRSでは今期、ある事業を売ってしまったようなときには、前期との比較をできるようにということで、過去の決算も組み替えなければいけません。
今期と前期分の2期分の決算書を作成しないといけないということのようですね。。。軽い気持ちで経営陣が事業の売買をしていたら現場の人達は殺意が湧きそうですね。。。
IFRS開示ベースの営業利益では「通常ベースで当期儲かったのか、収益性が上がったのか」がわからない
会計のプロがこんな事を言ってしまうわけで、IFRSにする意味があるのかどうかわからないですね。。。個人的にはIFRSが浸透してしまったら、投資家視点では今までよりも更にキャッシュフローベースで考えていくしかないと思っていますが、今後IFRSを有用に使う何かしらの方法が編み出されることを期待したいです。ちなみに経営者視点だと、会計上の利益を作りやすいというのはありますね。のれんを定期償却しなくて良いとか。。。(減損テストは毎年実施されます)
IFRSは嫌いです(笑)