TBSホールディングスの事業価値を時価総額と保有資産から逆算して求めてみる件
先日、TBSホールディングスが、外資系ファンドから保有株式の一部を売却するように要求されている、という報道がありました。
TBS株を1.5%保有するアセット・バリュー・インベスターズのジョー・バウアーンフロイント最高経営責任者(CEO)は「TBS株主が実際に投資しているのは、TBSが言うような番組制作・広告収入事業ではない」と指摘。同社の価値は保有する株式ポートフォリオがもたらす価値が中心だとし、経営陣は「ここにいかなる価値も足していない」としている。
非常に厳しい表現です。事業を通しては、何も株主価値を産んでいないと言っているわけですから。
そこで、TBSのバランスシートをちょっと見てツイートしてみたら、思いの外反応が多かったので、もう少し丁寧に見てみようと思いました。
TBSの時価総額が約4,260億円で、TBSが保有している投資有価証券が3,631億円。土地が840億円。投資有価証券+土地>時価総額になっている。ざっくり言って、今の株価だとTBSの事業自体は全く価値を生み出していない(というか事業を行えば行うだけ価値を毀損)ということになる。 pic.twitter.com/Gte4X60PfC
— りょうちん@NBA・投資・techなど (@pullup0721) 2017年10月25日
ファイナンス理論上、
企業価値 = 事業価値 + 非事業価値
企業価値 = 株主価値 + 有利子負債 + 非支配株主持分
と表現できます。
本来、上記の式は、
株主価値 = 事業価値 + 非事業価値 - 有利子負債 - 非支配株主持分
という入れ替えをして、将来のフリーキャッシュフローを資本コストで割り引くことで事業価値を算出し、最終的に「株主価値」を求める、という使い方をします。いわゆるDCF法です。
しかし今回は、株主価値 = 時価総額として、事業価値を逆算して求めたいと思います。上記の式を入れ替えると、
事業価値 = 時価総額 + 有利子負債 + 非支配株主持分 - 非事業価値
となります。
ひとつずつ数字をセットしていきます。
まず、時価総額ですが、2018/10/27の時価総額は約4,430億円です。
次にTBSホールディングスの2018年3月期1Qのバランスシートを見てみます。
有利子負債 = 短期借入金 + 1年内返済予定の長期借入金 + 長期借入金とします。よって、有利子負債 = 0百万円 + 5,400百万円 + 17,000百万円 = 約224億円になります。
非支配株主持分は、約150億円です。
最後に非事業価値ですが、ファンドの要求によると、投資有価証券は持ち合いしているだけで事業には使われていないということになるので非事業価値にカウントします。土地に関しては、売上に「不動産セグメント」というセグメントがあるのですが、総売上に占める割合は小さいので、非事業価値としてカウントします。ちなみに土地は、バランスシート上は取得原価が計上されていますが、時価評価すると大きな含み益を抱えているようです。その他の固定資産は事業に使うということにします。
また、流動資産のうち、一般的に現金の一部と有価証券を非事業価値に含めますが、現金は事業で全部使う前提で、有価証券だけを対象にしてみます。非事業価値がその分小さくなります。逆に言うと、事業価値が大きめに算出されることになります。
そうすると、非事業価値 = 投資有価証券 + 土地 + 有価証券 = 約3,631億円 + 約840億円 + 約4.5億円 = 約4475.5億円になります。
事業価値 = 時価総額 + 有利子負債 + 非支配株主持分 - 非事業価値
上記の式に当てはめると、
事業価値 = 約4,430億円 + 約224億円 + 約150億円 - 約4475.5億円 = 約328.5億円になりました。10/27に株価が上昇したこともあり、ツイートした内容とは違って10/27時点では事業価値は一応プラスになっており、市場から事業には価値があるという評価を受けていることになります。ただし、土地の含み益を非事業価値に加えると、事業価値はやはりマイナスになる可能性が高そうです。また、投資有価証券も現時点の時価で計算するとマイナスが大きくなるかもしれません。
現状からちょっとでも株価が下がってしまうと、ファンド陣営が言うように、番組制作・広告収入事業は株主価値を産んでおらず非事業価値(資産)にしか株主価値が無い、ということになっていまいそうです。(ここでファンド陣営が言っている価値とは、ROIC - WACCスプレッドがプラスならば発生する付加価値というファイナンス上のもので、TBSが作成しているコンテンツに価値が無いという意味ではないと思います。)
こういう状況を発生させたり放置してしまうのは、経営陣の怠慢に他ならないので、経営陣には是非とも良い対応を期待したいと思います。(それが出来たらファンドから文句言われていないわけでもありますが。)今回の件がコーポレート・ガバナンスの浸透にプラスに働く事を望んでいます。
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DCF法でざっくり一株あたりの株主価値を把握するノート
※DCF法で一株あたりの株主価値を算出して株価と比較することで、割安・割高・フェアバリューかを判断できます。